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【アンダーグラウンドチルドレンXX】ショートストーリー②

【アンダーグラウンドチルドレンXX】PC:ハネウタ・スピリトーゾ

蛇退治

「・・・・・・ぃ、おーい。おはよーございまーすー」
 肩を揺さぶられ、ハッと目を醒ました。
「ぅ・・・・・・ん、・・・?」
「ったく、寝ぼけてんじゃねーよ」
 ギルド店員からコツンと頭を小突かれ、意識を覚醒させる。
「カウンターで仕事探しじゃなくて昼寝してるヤツなんて初めて見たぜ」
「・・・・・・うるさい。今日の仕事量が少ないから見飽きただけだ」

 目を擦りながら、売り言葉に買い言葉で応じる。

「ホラよ、新しい仕事幾つか受注してきたぜ」

 店員がハネウタに幾つかの書類とオレンジジュース渡す。
 オレンジジュースを一口啜り、書類を斜め読みしながら出来そうな仕事を見繕う。
 そこで、ふと目に留まった仕事。

【逸楽の館主催・朗読の集い 本の朗読者募集中】

「お前、本好きって話してただろ?だから、きっとソレを選ぶんじゃねーかな?って思ってな」
 店員がハネウタに言いながら、ギルドに訪れた別のギルド員の対応を始めた。

 逸楽の館が主催と云う事で、普段受注している仕事の報酬より結構な額である。
 それだけでも魅力的なのだが、自分の趣味である本を読み聞かせするだけで、この報酬が貰えるのだから「趣味を実益に変える」とはこの事かと思った。
 様々な言語の本が有るらしいが、自分の得意な言語を申し出れば大丈夫らしいし、朗読する本は処分する事になっているらしいので欲しければ無償で譲るとの一文に心が揺れる。

(逸楽階層か・・・・・・派手な場所も目立つのも好きじゃないけど・・・・・・鉱石全集買ったせいで生活費がキツくなってるのも事実だし。でも本の無償譲渡だしなぁ・・・・・・)

 暫くカウンターで唸っていたが、無償譲渡と報酬の高さに負けて仕事を受注してしまった。

「生活費と家賃に充てるか・・・・・・」



 朗読会当日。
 ハネウタは逸楽の館の朗読会の会場にやって来た。
 家を出る直前にドレスコードに気付き、閉店直前の服飾店に慌てて飛び込み一番安価だった黒と紫色のショートドレスを購入した。
 かなり年代の本もあるので相当な勤勉者が来ると思っていたらしく、ハネウタの容姿、つまり若者と云う事で主催者を固まらせるには充分だった。
 訝しがられたものの、指定した本の件を数ヶ国語でスラスラと聞かせると、主催者が平謝りで謝罪した事は言うまでも無い。

 控室に入ってから30分後、もうすぐ出番だと言われて控室を出た。

 舞台袖から観客席を覗き込むと、100人前後の観客がステージで語り紡がれている朗読に耳を傾けている。
 オールドマンも居ればダブルチャイルドも居る。明らかに他とは見た目の違う魔能者も居る。
 フォーマルスーツやパーティードレスに身を包んだ観客が殆どで、ドレスコードに気付けて良かったと痛感した。


『・・・・・・と謂う話でした。御拝聴、有難う御座います』

 先に出ていた朗読者の話が終わったらしく、拍手と歓声が上がった。
 朗読者は観客席に向かって一礼すると、手を振りながらにこやかに手を振って舞台袖に戻った。
 
『有難う御座いました。異国の物語、愉しんで頂けたでしょうか?続いては、このエデンが生まれるより遥か昔の物語です。次の朗読者は、ハネウタ・スピリトーゾです。どうぞ』

 司会者の紹介と同時に舞台袖から姿を現したハネウタだったが、観客の反応が一瞬だけ変わった。
 ハネウタの様な若輩者が朗読出来るのだろうかと思われた結果だった。
 しかし、そんなアウェイな雰囲気を物ともせず、本を片手に語り始めた。
 朗読、と言うよりも旋律に合わせてまるで謳っているかの様に言葉を紡ぎ続ける。
 始めこそ軽視していた観客だったが、ハネウタが一つの件を発するにつれて一人、また一人とハネウタの紡ぐ言葉に耳を傾ける。

 朗読を終え、観客に向けて一礼した所で盛大な拍手が贈られた。
 中には求愛の声まで聞こえて来たのだが、ハネウタは再度一礼しながら舞台袖へと消えた。

「お疲れ様でした!大変良かったです、是非とも専属になって頂きたいものですよ」
 主催者が最初の非礼を消し去らせようとばかりに賛辞を贈ったが、ハネウタはそれに対して軽く会釈をするだけだった。
「それよりも・・・・・・本の件だが」
「はい、聞いております。オカルティストギルドの方にお送りすると云う形で宜しかったでしょうか?」
「あぁ、充分だ」
「そうですか・・・・・・それでは、少ないですが報酬となっております、お納め下さい」
「そうか・・・・・・悪いな」
 主催者がハネウタに結構な重みの有る封筒を手渡した。
 よく調べると、昨夜読み終えた文庫本より厚みがある気がする。
「朗読会の御開きまで時間があります。受付には話を通しているので、観客席で御拝聴されても結構ですよ」
「あぁ。好きにさせてもらう」


 朗読に使った本を抱えて控室を出てから観客席に入ったが、席は満席だったので声だけ聞こえれば充分と思って壁に凭れながら話に耳を傾けた。
 ステージでは別の朗読者が別の話を披露していた。

 約1時間後、朗読会は主催者の詩の朗読で幕を閉じた。


 逸楽の館から出たハネウタは、改めて逸楽階層の街並を眺めた。
 スラム街の混沌階層とは全然違う世界。
 夜だと云うのに、建物も道を行く人も全てが眩しく感じる。
 今は着慣れないドレス姿だが、街に溶け込むには充分過ぎる格好だった。

 しかし、場慣れしないと云う理由で早々に逸楽階層を立ち去る事にした。
 下層に続くルートを進んで行く途中、人込みに遭遇して上手く進めなくなった。


「久し振りだな、マルカート」

 耳元から聞き覚えの有り過ぎる名前と声が聞こえて来た瞬間、周囲の雑音が掻き消された感覚に陥った。
 身体と口元を塞がれて身動きが取れなくなったのだが、それ以上に咄嗟の事で頭が働かずに抵抗する事も忘れてしまった。
 身動き取れないのを知ってか知らずか、人波に乗りながら薄暗い路地に連れて行かれた所で口元を解放され、ドンと地面に突き飛ばされた。
 地面の冷たさで、思考停止から現実に引き戻された。

「・・・・・・レビ・・・ジュ・・・様・・・・・・?」

 金髪碧眼、黒いスーツを着こなし、手の甲には蛇の刺青が入っている。
 レビジュ・プレシウ。
 パラケルススの仔ら所属、高位クラス魔術師で【蛇宝石】と呼ばれる伊達男で「マルカート」時代のハネウタを支配していた本人。

「懐かしいなぁ、読書好きは変わらないのか。おかげでお前の旋律を愉しめたよ」

 レビジュの発する一言に身体が硬直する。

「心配したんだぞ、勝手に結社から居なくなったからなぁ」
「ぅ・・・・・・あ・・・」

 ハネウタはデビルウェポンを出そうと左腕に手を触れようとしたが、手がガクガクと小刻みに震えていた。

「コレ、用無しにするには惜しいと思うんだが」

 金属がぶつかる音が聞こえ、レビジュが手にしている物を見た瞬間、顔面蒼白になった。

 鎖で繋がれた銀色の首輪。
 
「ひ・・・・・・っ」

 ハネウタは自分の首に手を添えていた。

 特殊能力を停止させる力が含まれた首輪。
 抵抗を禁じた事を武器に、奴隷の様な扱いで虐げられ、時には心を折られていた。
 反論した途端に罰を与えられる。
 この首輪を装着されている時は、首輪を外そうと常に首に手を添えていた癖が抜け切れていなかった。

「ぁ・・・・・・いや・・・・・・っ・・・・・・」

 ダブルウェポンやPSI能力で反撃したかったのだが、過去の忌まわしい記憶が鮮明に蘇り、レビジュに対する嫌悪感と恐怖心で身体を動かせずにいる。
 
 そんな隙だらけのハネウタを知ってか、倒れこんでいるハネウタに覆い被さって頭を押さえ込み、ドレスの背中部分の布を乱暴に捲り下ろすと傷痕だらけの背中が曝け出され、背中から腰に向かって蛇の形をした焼印の痕が曝け出された。

「っ・・・・・・さわ、る・・・・・・なっ!!」
「お前が俺の事を嫌っていたのは判っていた。しかも、監視の目も有るから限度があるが、脱走したマルカートの処罰に制限は無い」

 首輪を開いてハネウタの首元に宛がった。

「お前の事はPSI能力も、身体の隅々まで知っている。俺から逃げられると思うな」

 首筋に冷たい感触を感じた瞬間、我に返った。

「・・・・・・テレポート!!」

 レビジュの目の前からハネウタの姿が消え去った。

「PSI・・・・・・まぁいい。そう遠くまでは逃げていないハズだな」






「ハァ・・・・・・ハァ、ハ・・・・・・ッ・・・・・・うぅ、・・・っ」

 街灯しか灯らない小さな路地に蹲っていた。
 混乱している状態のまま3回連続で長距離テレポートを駆使し、集中力が途切れてしまったのだが、追跡を撒くには充分だった。


『俺から逃げられると思うな』

「・・・・・・っ・・・!!」

 自分を落ち着かせようと深呼吸を試みるが、レビジュに支配されていた記憶が鮮明に蘇り、様々な恐怖心と嫌悪感が重なり合って身体がガクガクと震える。
 喉元を手を当て、自分の喉に首輪が嵌められていない事を何度も確認している。

「そう・・・・・・だよな・・・。あたしはもう、結社とは関係無い、から・・・・・・」




『や、めろ・・・・・・っ、離せ!!』
『PSI能力は停めてある、大人しくさせろ』
『畏まりました。おい、お前は足を押さえろ』
『わかった・・・・・・暴れるんじゃない!』
 短鞭が空を切る音と同時に、背中に新たな傷痕が浮かび上がる。
『やだ・・・・・・やめ、ろ・・・・・・』
『喜べ、マルカート。これでお前は俺の飼犬だ』

 生肌に高温で熱された焼鏝が押し付けられ、激痛と同時に皮膚が焼けた音が耳に響く。
 無常に響き渡る叫び声。

 程無くして背中に焼き付けられたそれは、1匹の蛇。

 それは、マルカートがレビジュに飼われた証だった。




 背中に疼きを感じる度に、飼われていた記憶が蘇る。

 思い出したくない過去が脳裏に浮かぶと、自然と目に涙が溜まっていた。
 身寄りの無い孤児だった事とダブルチャイルドだった事で結社から保護を受けていたが、保護と謂うのはダブルチャイルドに向けて与えられる保障の為の建前だった。
 秘密裏に「犬(カニス)以下」と呼ばれ、レビジュを軸にした一部の魔術師や魔力を持たないカニス達から受ける屈辱に耐えていた。
 逃げ場所の無かった盲従生活では「死んだ方が楽になる」とも思ったが、自ら命を絶つと云う選択すらも持てなかった。
 「物」「映像」などの記憶では無く、レビジュと云う存在そのものが生まれて初めて味わった「恐怖」だった。
 魔術師全員に罪は無いのだが、「レビジュが魔術師である」と云うだけで全ての魔術師を嫌っていた。
 



「逃げ、ないと・・・・・・」

 立ち上がろうとした途端、履いていたハイヒールが何かに躓いて、その先に目を凝らすと足に蛇が絡まっている。

「ヘ、ビ―――・・・・・・しまった・・・・・・!!」

 生き物の血を浸した紐や鎖を聖域化して魔力の蛇を創り出す、ルーン秘術【ヒュドラの牙】

 空を切る様に足を蹴り上げると、絡まっていた蛇が足から離れた。
 その蛇はハネウタとは反対方向に向かって滑り出して姿を消した。

 ハネウタの足に絡まっていた蛇は、レビジュが得意とするルーン秘術であり「蛇宝石」と呼ばれる由縁のもの。
 ルーン秘術「ヒュドラの牙」とルーン創生「使い魔の創造」の応用術で、ヒュドラの牙で生み出した蛇を自分の使い魔として使役していた「フェッセル」と言う名の、隷属時代から見ていた蛇。

 きっと、この場から上手く逃げ出せても、フェッセルがハネウタの居場所を突き詰めるに違いない。

「奴を叩くしか無いのか・・・・・・」








 レビジュの元にフェッセルが戻ると、スルスルとレビジュの腕に身体を絡めながら結果を伝える。
「そうか。マルカートは見付かった様だな」
 その言葉を聞くと、腕から抜け出してレビジュを案内する様に先頭で進む。

「・・・・・・マルカート、お前は死ぬまで・・・いや、死んでも俺のモノなんだよ」

 冷酷に呟き、口元に笑みを浮かべながらフェッセルの後に続く。



 建設途中の建物の前でフェッセルの動きが止まり、レビジュの腕に絡み付く。
 この建設物だった場所はどこかの誰かが個人で建設しようとしたオークションハウスだったが、何かかしらの事情で建設が中止となったと云われる場所だった。

「マルカート、俺が直々に迎えに来てやったぞ」

 しかし、その問い掛けには何も返って来なかった。

「・・・・・・そう怯える事は無いぞ。そうだ、お前が戻ってきてくれたら、まずは綺麗なドレスを着せてやろう」

 宥める様に、言葉を続ける。

「そうだな、それから・・・・・・お前に似合う香水も選ぼう」

 続く言葉に対しても、ハネウタからの答えは帰って来ない。

「結社に戻れば、楽しくなるぞ?」

「黙れ。楽しいと思っているのは、お前達だけだ・・・・・・っ」

 離れた場所で待機していたのだが、瞬間移動でレビジュの前に現れた。

「俺に飼われていた時は、反抗すらしないで可愛かったぞ?その辺の女なんかよりずっと・・・・・・」

 ヒュン

 レビジュの言葉が終わる前に、左腕の紋章からデビルウェポンのハルバードを取り出し、レビジュに向かって斬り掛かりに飛び込んだが紙一重で交わされる。

「黙れ・・・っ、・・・黙れ・・・・・・黙れぇぇぇぇぇ!!」

 積み上げられていた屈辱よりも、支配されていた頃に受けた最大の逆鱗に触れられた。
 PSI能力を解放すると、ハネウタを中心とした範囲に圧が掛かり、レビジュもプレッシャーを感じて一瞬だけ戦慄を覚えた。


「吠え過ぎた犬には、正しい躾と罰を与える必要が有る。マルカート、お前の還る場所は俺の手だ」


 声のトーンが少しだけ低くなった。 
 ポケットの中から、かつてマルカートと呼ばれていた時期に嵌められていたPSI能力封じの首輪を取り出し、ハネウタに向けて突き出した。
  
「――――――!」

 ハネウタはその感覚を覚えていた。
 表面を流れるだけの水の様に冷たくなった時が、どんな仕打ちを受けていた時よりも恐怖を感じていた。
 今の一言でグラリと視界が歪んで、抵抗した事を後悔するには充分だった。
 しかし、後悔しようともハネウタには判っていた事が有る。

「お前が居る限り、あたしは自由になれないんだ!!!」


 ハルバードの柄を握りながら身構えると、レビジュはポケットからライターを取り出して点火させた。



「火の印」

 空中に目を向けると、レビジュの象徴でもある蛇に似た文様が浮かんでいる。
 その蛇が口を開けた様に見えた瞬間、間隔を空けずハネウタ目掛けて矢の様に炎が降り注ぐ。
 炎の落下地を予測して素早く避けるが、避け切れない幾つかの炎が身体を掠め、チリッとした傷みに眉間を歪める。

「フェッセル!!」

 50センチほどの大きさだったフェッセルがレビジュの声に反応するとジワジワと大蛇ほどの身の丈に変わり、最終的にはハネウタの持っている巨大ハルバードをも越える3メートルもの巨大な大蛇に変化した。
 巨大で長い尾の部分を振り回し、周囲の瓦礫を叩き潰しながらハネウタを執拗に狙う。
 先程の火の印に比べるとフェッセルの方が目測が判りやすいので避け易かったが、飛び散る瓦礫を避けながらの防戦一方で手が出せずにいる。

「ちっ・・・、せめて動きを停める事さえ出来れば・・・・・・」

 一瞬だけ気を取られた瞬間、目の前に白い物体が現れ、それを認識出来ないまま衝突音と共に壁に押し潰された。

「・・・・・・は・・・っ・・・」

 フェッセルがハネウタに体当たりを喰らわせたまま、押し潰そうとしている。

(息、が・・・・・・)

 瞬間的に呼吸が停まり、全身を圧迫してくる巨体に手出しが出来なくなっていた。
 無理矢理に呼吸機能を停められているので、身体に酸素が行き渡らなくなり、目の前が霞んだ。
 そんな状態で、頭の上からレビジュの声が聞こえて来た。

「安心するんだ。躾と言っても殺しはしない、お前のその顔を見るのが好きなんだ」

 追い討ちを掛けるかの様な冷酷な言葉に、フェッセルの頭上で見下ろしているレビジュを睨め付ける。

「・・・・・・外、道・・・・・・っ・・・・・・、・・・【エオリア】!!」

 爆風と共にフェッセルの巨体が空中に吹き飛び、落下した衝撃で痙攣を起こしていた。
 適正PSI能力【エオリア(風精)】を起こしてフェッセルを吹き飛ばしたが、フェッセルの頭上に立っていたレビジュは逸早く察知してフェッセルと同様の被害を避けていた。

 膝を付きながらもハルバードを構えると、フェッセルに刃先で狙いを定めて意識を集中させた。

「惑え・・・・・・【ツイスト】!!」

 【ツイスト(空間歪曲)】を受けたフェッセルは呆けていた様子だったが、数秒後に2人とは逆の方向に進み出した。
 ツイストの能力でフェッセルの視覚範囲内に幻覚を見せていた。

「げほ・・・・・・っ・・・・・・、お前の、得意な蛇は・・・役に立たない」

 咳込みながら立ち上がると、地面を蹴ってレビジュに向かって駆け出した。
 巨大なハルバードではあったが、ハネウタの動きは素早かった。

 振りかぶりながら叩きつけ、横一線に鋭く斬り抜き、突き上げる様に斬り上げる。

 ダブルチャイルドと呼ばれるだけあって戦闘能力が普通の人間より突き出ているのは当然だが、PSI能力も一緒に使いこなしているので最新型の軍兵器よりも破壊力は高い。
 長い間ずっと虐げられてはいたが、奇しくも「実験動物」と呼ばれていた経験は伊達ではない。
 生き抜く為の戦闘術は身に付けていた。

 手数の多い攻めに詠唱すらままならないので、持っていたナイフでハルバードを受けるのが精一杯。
 刃先が服の袖を掠めた時、手の薄皮が数センチほど切られた。

「ちっ・・・・・・雨よ!!」

 ハネウタの身体を突き飛ばし、間合いを取ってから短く詠唱をする。
 すると、ハネウタの目の前からレビジュの姿が消え去った。
 正確には「ハネウタの意識から自分の存在を消した」と云う状態になる、ルーン秘術【黄金の雨】

「しまった・・・・・・隠れたか」

 突き飛ばされた時に壁に衝突したので軽く咳き込みながら、舌打をする。

 姿は見えなくなっているが、壁を背にしたまま周囲を警戒しているハネウタを視ていた。

(予想外だった・・・・・・いつの間にアレ程の能力を・・・・・・油断していたら、俺がやられる・・・・・・)


 ハネウタがレビジュに恐怖心を抱いている事と同様に、実はレビジュもハネウタに畏怖を抱いていた。
 支配していたとは言え、偶然にもダブルチャイルド能力を開花させたのは自分達だった。
 マルカートからの反逆、つまり復讐を恐れた者達との研究の末、PSI能力・デビルウェポン・魔術などの特殊能力を強制的に封じる魔術加工した首輪を造り上げた。
 その首輪のおかげで抵抗させる術を無くし、結社から脱走される直前まであらゆる仕打ちで服従させていた。
 首輪を外したまま脱走したと云う話を聞いた時は、もしかしたら・・・と云うマルカートからの報復に怯えを感じていた。
 しかし、マルカートの気配を感じられなかったので安心しきっていた時、偶然にも偽名を名乗っていたマルカート。つまり、ハネウタと再会した。
 レビジュが恐れている事が現実となってしまったが、いつも密かに持ち歩いていた首輪のおかげで余裕が生まれていた。
 
「必ず・・・・・・連れ戻してみせる」




 レビジュの姿が見えなくなった事で警戒を続けていたハネウタを見ると、壁に背を預けながら意識集中をしている。

(やはり・・・・・・甘いな。黄金の雨は「存在」そのものを意識から消すんだ。集中しただけでは俺を探せるわけが無い)

 歪んだ笑みを浮かべ、ポケットから首輪を取り出してハネウタに一歩ずつ近付いて行く。
 手の届く近さの所で首輪を開き、ハネウタの首に宛がう。


 カシャン。


 金属音が落下する音が聞こえた途端、ハネウタの身体が地面に転がった。


「ん・・・・・・な、何だと・・・・・・?!」


 レビジュは自分の身体が。否、指先ひとつ動かせなくなっていた。
 何だか判らないと言っている様な声色を上げながら黄金の雨の術を解除した。

『支配されるのは、どんな感じだ』

 レビジュの脳にテレパス能力でハネウタの声が響いて来た。

「・・・・・・マ、マルカート・・・?」

『・・・お前の考えている事ぐらい、テレパスを使わなくても見抜ける』

「・・・・・・」

『あたしを支配していた様に。今はあたしが・・・お前を支配している。言っている事、理解出来るか』

「・・・・・・ゴーストか!?」

 【ゴースト(憑依)】相手に気付かれずに取り付く事が出来て、相手の意思をコントロールする事も出来る能力。

 先程、レビジュに一撃を喰らったと同時に【スティールアウト(幽体離脱)】で精神と身体を切り離して【ゴースト】でレビジュに憑依していた。
 しかし、首輪を自分に嵌められては作戦は失敗となる。
 唯一無二の賭けでもあったが、憑依している事を感じさせないまま乗っ取る事に成功した。


「待て!お前は確かAランクの能力は使えなかったハズだ!!」
『少しは、お前達に感謝しておいた方がイイのか。』
 
 ハネウタはテレパスを使って、数分前の記憶の映像をレビジュに送った。




 ポーチの中から錠剤を取り出した。
 その錠剤は、結社に居た頃に研究グループが創り出した物だった。
 ダブルチャイルドの能力を一時的に解放、バーサーク状態を引き起こすと云う危険な代物。
 この錠剤を創る為のサンプルとして、更には試薬の実験体にされた事があった。
 その副作用なのか回数を重ねて行くにつれ、当時はダブルチャイルドランクが最下位のDランクだったが、一気にBランクまで跳ね上がった。
 何かがあった時の為にと思い、密かに錠剤を幾らか盗み出していた。

「汚い手口なんて関係無い!」

 錠剤を口の中に放り込んだ所で、テレパスで送られた映像が途切れた。




「・・・・・・アレの仕業か」

 少なからずとも自分も加担していた事だったが、もう後の祭りである。

『・・・・・・用意周到なのは相変わらずか。まぁいい』

 レビジュの手がハネウタの意のままに動き出した。

「な・・・・・・何のマネを・・・!?」

 地面に落ちた首輪を拾い上げ、留め具を開く。
 その動作でハネウタが何をしようとしているのか察知したレビジュは、背筋が凍るほどの恐怖を覚えた。

「まさか・・・・・・や、やめろ!俺に・・・こんな事をしてタダで済むワケが・・・・・・!!」

 首輪を自分の首に宛がい、鍵穴にポケットから取り出した小さな鍵を通した。

「やめろ・・・・・・逃げた事は許してやる、もう追跡もしない、戻れとも言わない!!」
『・・・・・・』
「ダブルチャイルドは偉大だ・・・・・・上から言われたんだ、だから仕方無かった!お前なら判ってくれるだろう!?」

 必死な懇願を聞き流したまま、最後の動作を仕向けた。


 カチッ。


 金属が嵌め合った音が聞こえた瞬間、レビジュは自分の中で魔力が停止した感覚を覚えた。
「―――・・・っ」
 力無く膝を付いて項垂れたまま、持っていた小さな鍵をポトリと落とした。

 ゴーストを解除させて精神を身体に戻すと、ハルバードを握り締めた。

「うぁぁぁぁぁっ!!」

 気合と共にハルバードを振り下ろし、鍵の原型が留めなくなるまで粉々に砕いた。






「・・・・・・レビジュ」

 我に返ったレビジュはハネウタの声に反応すると、目を見開いたまま動けなくなってしまった。

 左腕の紋章から、ダブルチャイルド特有の黒翼の様なオーラが立ち上がっており、ハルバードからは強いエネルギーが放出されている。
 その姿は正に「デビル」そのものだった。


「『殺しはしない、一生怯えろ』・・・って、呪詛みたいに言われ続けてたけど・・・・・・今度は、お前の番だ」


 そう言いながら、一歩近付いた。

「ひ・・・・・・、来るな・・・・・・来るなぁぁぁぁぁ!!!」

 レビジュは初めて味わう恐怖に震えながら、その場から逃げ出した。
 姿が見えなくなるまで目を逸らさないでいたが、何故か追う気は起きなかった。


「終わった・・・・・・のか」


 ハルバードを消すと緊張の糸が切れたらしく、崩れる様に座り込む。
 自分の手を見ると、カタカタと震えていた。


「終わったんだ、もう終わったんだ・・・・・・あたしは、檻から抜け出せたんだ・・・・・・」



 
 背中の蛇の焼印と傷の疼きは止まらなかったが、もう気にならなくなっていた。

 現実で見ていた悪夢が醒めたのだから。

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プロフィール

苑(おん)

Author:苑(おん)
「おん」と読みますが「Bさん」でも可。
ECO・PBM・太鼓とかあれば大抵は幸せな人。
かつて大臣と呼ばれたP.A.S.難民。

【プロフィール詳細】
【リンク詳細】

【ECO】
ECOはフリージアのみ稼動。声掛け歓迎。
ピッグーが好き過ぎて辛い。
二次創作サイトは此方。
参加キャラ(自前リング「弐界戯曲」所属)

1st:トセット 天/♀/槍
トセット

2nd:シロフォン 人/♀/農
シロフォン

3rd:ハネウタ 天/♀/魔
ハネウタ

4th:ラピメント 人/♀/商
ラピメント

5th:樹嶋朔刃 悪/♀/剣
樹嶋朔刃

6th:樹嶋笹女 人/♀/巫
樹嶋笹女

7th:王瀬・ラピメント 悪/♂/商
王瀬・ラピメント

8th:桂丞 悪/♂/隠
桂丞

9th:滝里心露 人/♀/冒
滝里心露

10th:徐泪耶 人/♂/鉱
徐泪耶

11th:マルカート 天/♀/癒
マルカート

12th:ナタルマ 天/♀/闇
ナタルマ

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